オペラを観に

ザールラント州立劇場に行きました。今日プレミエを迎えたエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの「死の都」(1920年、ハンブルク及びケルン初演)です。1920年代で最も上演されたオペラ作品と言われていますが、その後、政治に翻弄されたこともあって、今ではあまり馴染みがなく、上演回数も多くありません。日本での舞台初演が2014年ということもそれを表しているかもしれません。

知らないオペラを観るときは複数のサイトで予めあらすじを読んでいくことにしています。今回もそうです。既に知っている作品ならば、登場人物が誰であるか、どういった人たちであるか分かりますが、初めての場合は、まずそれが誰なのかわからないことが多く、その点で衣装や舞台が大切だといえます。「死の都」は登場人物が多くないので、すぐにわかりましたが、それよりも演出や舞台セットの方が印象に残りました。

開演前の劇場前。正装率が高いだけでなく。着飾っている人がいつものプレミエより多いように感じられました。

ところでオペラ雑誌などによるとここ数年、ドイツのオペラ劇場では演出(舞台セット)が昔よりシンプルになってきているということ。予算の問題、大道具などのセットを保管しておく場所の問題等があるようです。ザールラント州立劇場でもシンプルな演出が増えていると思いますが、一言でシンプルと言っても、見せ方が上手い人もいれば、そうでない人もいます。うまいと思った人たちは、その後より大きな劇場で演出をしているようです。

今回の「死の都」は小道具が多く、ごちゃごちゃした印象でしたが、セットがわかりやすく、オペラを観る人に優しい演出といえるかもしれません。そのごちゃごちゃ感が逆に音楽とも合っています。また光の使い方が上手く、それだけでも色々な光景や心理描写を演出できます。

そして何より舞台が回りません。2年ほど前に劇場の舞台工事が行われて、舞台が回転するようになりました。内側外側それぞれが独立した動きで回りますが、その工事以降、多くの演出家が舞台を回しています。単純に舞台転換であったり、時間の経過を表す描写的なものとして。しかし観客の立場から見えれば、また舞台が回っているという感覚があって、演出家の個性が消えてしまっている印象があります。今回の公演と直接は関係ないですが他の劇場の舞台は回らないので、ここでの演出は他では上演できません。しかし見方を変えれば他の劇場にはない、この劇場ならではのものとも言えます。様々な立場や見方、視点でがあるので、良い悪いの話ではないですが、作品それぞれを個別に見るのではなく、劇場のシーズンを通してみたときに気になるときがあります。

この「死の都」は回らず、横と縦、奥行きを移動させて舞台世界を作っていましたが、狭い空間の作り方が上手いと思われました。登場人物の少なさもありますが、普通は逆に広く見せようとすることが多い中で、それが非常に新鮮に映りました。そして先にも書いた上手い光の使い方があって、久しぶりに良い演出を見た気がしました。音楽にあっていて、作品の世界をうまく作っています。演出家はかなり勉強したのではないかと感じられる作品でした。見る人に何かを押し付けるような演出は、見ながら考えることが多く、音楽や舞台に集中できないことがありますが、今回の舞台はごちゃごちゃ感もあってシンプルとは言えませんが上手くコンパクトにまとめられている印象です。久しぶりにこういった舞台を見た気がします。

公演のほうは後半に入るときの指揮者が出てきたときにもブラヴォーが飛び、カーテンコールでも手拍子のような拍手になり、それもテンポが速いので、それだけ興奮した観客、満足した観客も多かったと思います。歌手陣や合唱、オーケストラにもブラヴォーが飛んでいます。そして演出家などが出てきたときも、圧倒的にブラヴォーが多かったので、演出的にも成功だったと思われます。作品によっては演出家が出てきたときにブーイングの嵐、しかも攻撃的なブーイングになることも(特に大きな劇場で)ありますが、今日はカーテンコールも含め一つの公演として楽しむことができました。あまり馴染みのないオペラなので今後の観客の入りが気になるところです。

公演後の劇場前の様子。正面の看板が明日の公演のものに替わっています。

午後11時ごろですが、気温が20度前後で晴れだったので、まだ多くの人が店にいるのがわかります。

オペラを観ていつも思うのは、舞台を作っていくのは写真の見せ方にも繋がる部分があるということです。同じ写真でも例えば用紙が違えば印象も変わります。展示する際に、照明の種類や当て方、額やマットの種類、作品展示の高さ、他の作品との間隔など、写真だけでなく見せ方も非常に重要だと思われます。今回の「死の都」は演出の好みは別としても、そういった点を考えることができて非常に満足した公演でした。そして演奏や観客が熱くなっているというよりも、落ち着いた中に熱量がある公演といった感じで、久しぶりにその感覚を楽しめた点でも今日の公演は観られて良かった、そんなコルンゴルト「死の都」でした。